インフォメーション

月に一度、さまざまな一次産業に関係する人たちとカウンター越しに語り合うLiV×LiVEs(リヴ×ライブ)。毎月変わる一夜店長。普段なかなか知り合う機会のない彼らが、どんなことを思い、どんな仕事をしているのか、生の声を酒の肴に交流を楽しむイベントです。

過去の開催レポートはこちらをどうぞ↓↓
Part1:むなかた鐘崎の海女ちゃん
part2:川上農園の3代目、耕太さんとしのぶさん
part3:古賀市From Tomato佐々木悠二さん
part4:鐘崎漁港の若手漁師 宗岡さんと権田さん
part5:宗像日本酒プロジェクト〈 農家/福島光志、石松健一郎、酒造/斉田匡
part6:しまカフェ〈草野結実/musubi cafe、豊福未紗/フィッシャーマンキッチン、成田由子/エンジニア〉
part7:とまとのまつお〈代表 松尾康司さん、森美穂さん〉

 

8回目の店長はすすき牧場代表の薄 一郎さん

すすき牧場は3000頭の牛を飼育する福岡県内最大規模の牧場で、宗像市河東にあります。

1947年に薄さんの父親が山を開拓して創業してから72年。牛肉の安全性が問題視された情勢も乗り越え、常に試行錯誤を続けてきたすすき牧場の歩みとこれからの展望についてお話を伺いました。

 

まずは本日のおつまみから

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すすき牧場のビーフジャーキーとむなかた牛のポテトチップス

ポテトチップスは道の駅むなかたとすすき牧場、山芳製菓が協働開発したむなかた牛を使った高級ポテトチップスです。1袋の売上に付き1円が世界遺産保全に寄付されるという仕組み付き!むなかた牛のパウダーが香ばしい香りを放ち、食べ始めると手が止まらない美味しさです。

ビーフジャーキーはソーセージなどを作ってくれている専門の業者に頼んで作ってもらっています。 

細かい部分は端折って製造方法を簡潔に聞くと、肉に味付けをして乾燥させ、凝縮したものがビーフジャーキーになるとのこと。できあがる頃には元の牛肉の大きさの3分の1ほどにまで小さくなり、一度にそんなにたくさんの量は作れないといいます。

Q.作ろうと思ったきっかけは? 

薄さん「牛肉は生物(なまもの)なので、消費者に届けるためには冷蔵庫や冷凍庫のある環境が必須で、販売する場所が限られてしまうのです。場所に制限されず、より多くの人にむなかた牛の美味しさを届けることができないか考えました。そして常温で置ける形に加工できないかと思いついたのです」 

ビーフジャーキーは癖がなくさっぱりしていて、噛めば噛むほど旨味がぎゅっとでてきます!これはビールやハイボールにぴったり! 

一袋800円とそれなりにお値段はしますが、大元の牛から手間暇愛情込められて育てられ、さらに手を加えられて凝縮したものが安いはずがありません。

大切な方や、日頃お仕事を頑張っているお父さんにプレゼントするのはどうでしょう?

これらはどちらとも道の駅むなかたで手にすることができますのでぜひ探してみてください。

 

知っているようで知らない牛肉の産地

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カウンター
手前が薄さん。奥は息子の蓮(れん)さん

すすき牧場では熊本など九州県内で生後2ヶ月の子牛を買いつけ、ミルクを飲ませるところから飼育を始めて約2年間育てるそうです。そうして出荷される牛肉の産地は宗像産となります。

牛肉の場合、一番飼育期間の長い土地が産地名として付けられるのだそう。例えば神戸で9ヶ月飼育され、その後宗像で8ヶ月飼育された牛肉は宗像で出荷されたとしても「神戸産」。オーストラリアで8ヶ月、その後宗像で6ヶ月、最後に神戸で5ヶ月飼育された牛肉は神戸で肉になったとしても「オーストラリア産」なんです。これには一同「へぇ~!」とうなずきます。

一般的には18ヶ月~30ヶ月くらいで食用肉になるそうですが、将来的には産み育てて出荷するまでを全て牧場内で行いたいと考えているそうです。 

 

ターニングポイントとなった2001年

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本日のお品書き

牛への飼料にこだわりをもつすすき牧場ですが、そのようになったタイミングは2001年に訪れました。

BSE、いわゆる狂牛病の問題です。

BSEはプリオンという感染性タンパクを摂取した牛がかかる伝染病。日本は輸入牛肉の原産国表示を義務化し食肉処理される牛全頭にBSE検査を行うなどの措置を取りました。

それと同時に、食品の表示問題や企業による牛肉偽装事件の発生などの問題が相次ぎ、消費者の牛肉離れが全国で広がることになります。

これを期に、牛肉の安全性が世界的に見直されるきっかけになったのです。

「国産」という言葉に盲目的に安心感を抱く傾向のある日本では「国産牛」の需要が高まりました。けれど飼料のほとんどを外国産に頼っているのが現状。日本で育った牛とはいえ、肉質としては外国産と何が違うのだろうかと薄さんは思いました。

本当に安心で安全な、子どもにも食べさせたい牛肉を作りたい。そのためにはどうすればいいのか。自分には何ができるのだろうか。

そして「本当の国産牛は、牛が食べるものもすべて国産であるべき」という考えに至ります。飼料の100%は難しいものの、できるだけ国内のものを取り入れるようにして、飼料米を自社で作るようになりました。

お米の他にも、工場で使用されず廃棄されるおから酒粕なども飼料に取り入れるようになります。

「自分たちがそれを扱うことで、工場さんからは廃棄処理にかかる費用が抑えられると喜んでいただけますし、私たちは飼料が手に入ります。廃棄物を資源化できるというwin-winな関係ができています」

 

畜産業の飼料事情

国産の牛はほとんど日本で生まれているものの、与えている飼料は85%が外国産。みんな輸入した餌で大きくなっているというのです。

一般的に15%にとどまる国産飼料の割合を、すすき牧場では50%以上という高水準に上げてきています。

ではどうして国産の餌が使われていないのでしょうか?薄さんは次のように話します。

「国産飼料の単価が高いというのもありますが、もともと日本で畜産業が可能になった背景には、アメリカからとうもろこしなどの飼料を無税で割安に輸入できるようになったことが関係しています。畜産業のベースには、輸入したとうもろこしを使うという前提があったのです。なので20年前、国産の飼料での取り組みを始めようとしたときには同業の誰もに『そんなことできるわけがない。やめたほうがいい』と口々に言われました。それくらい畜産業では輸入飼料が当たり前のことなのです」

消費者の私たちは「国産」という言葉を見て「安心・安全」を連想します。しかし、本当の国産とは何なのか、何をもって国産というのか、考えさせられます。

 

むなかた牛の話

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興味深いお話は続きます 

むなかた牛というブランドは地元の人たちに食べてもらいたくて、地元宗像のために作ったものでした。しかし残念なことに、最初はなかなか市内で認知されていなかったといいます。

行政との関係も当時はあまり良くなく、声がかかるとすれば内容は飼育による匂いの苦情ばかり。そんな関係性が変わったのは7、8年前のあることがきっかけでした。

「とある宗像市民が北海道の百貨店でむなかた牛を見つけ、その味に感激したのですが、現地宗像では全然その名が知られていなかったんです。その方が市長への手紙に『どうしてむなかた牛をもっとアピールしないんですか』と書いてくださって。それから少しずつ行政が見てくれるようなっていきました」

その出来事はまた、すすき牧場にとっても自分たちが地元で認知されていないということを知るきっかけにもなったそうです。そして飲食店や道の駅に積極的に営業に行くようになったといいます。 

市民の声は大きいのですね!

 

むなかた牛の肉は赤身なのが特徴!

脂肪分が多い霜降り牛と違い、むなかた牛はさっぱりしていて癖がなくたくさん食べても胃がもたれにくいという特徴があります。

「牛肉は苦手だったけどすすき牧場の肉は食べられる」というファンも多いそうです。

国内でも赤身肉のローストビーフ丼などがブームになったこともあり、徐々に赤身肉も好まれるようになっています。

そんな赤身肉のむなかた牛を美味しくいただくポイントは一つだけ、焼きすぎないことです。

焼き肉やBBQなどは火が強くて一気に熱が入ってしまい、肉の中の水分が出てしまうため赤身の強い肉はどうしても固くなってしまうのです。なのでそれをあまり知らずガンガン火を入れてしまった人からは「むなかた牛は固い」と言われてしまうのだそう。うーんもったいない。

肝心なのは焼くときの温度

表面は170~180度で焼くと香りが立つのでさっと焦げ目をつけます。一方中身の赤身肉は65度あれば火が通ります。表面をさっと焼いた後に、火を止めてフライパンに蓋をして予熱で中の火を通す。

原理がわかればそんなに難しいことはありません。この方法で柔らかいフワフワのむなかた牛を食べてみてください!

 

国際認証規格「SQF」

薄さんの飽くなき挑戦の背景には、徹底したこだわりがあります。

すすき牧場では2014年1月付けで国際認証規格「SQF」の認証を取得しました。

自社だけで製品の安全・安心を判断するのではなく、国際規格の外部認証品質管理システムを取り組むことで、より一層の安全性と品質を確保することを目指しています。

SQFは認証を取得すれば完結するものではなく、日々の記録を検証しシステムの見直し・強化・向上に継続的に取り組むことが求められます。

近年ではHACCPグローバルGAPなどがありますが、牛肉の世界ではこれに相当するものがSQFなのです。実際に取得したときは、国内の畜産業界において検査機関よりも先んじた最初の取得企業だったそうです。

民間企業が検査機関より先にこの認証を取得したというのは驚くべきことです!

 

息子の怜(れん)さん

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カメラを向けると照れながらもニッコリ笑ってくれました!

薄さんの一人息子、怜(れん)さんは今年高校3年生。オーストラリア暮らしが長かったためインターナショナルスクールに通っています。

高校卒業後は趣味のサーフィンを楽しみつつバリでインターネットを使った仕事をしたいと話していました。まだ18歳ですが、すすき牧場についてどう考えているのでしょうか?

「まずは社会人になって起業したいです。でも、いつになるかわかりませんが、いずれは父の仕事を継ぎたいと思っています」

日本を越えてグローバルな視野を身につけようとする怜さんの姿勢はとても18歳には見えず、堂々としていました。これからの活躍に期待が膨らみます!

 

これからしたいこと

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父の薄 一郎さんと息子の蓮さん

薄さんは8月に行われた第6回 宗像国際環境100人会議米農家の福島さん(リヴライブ5月の一夜店長)と若手漁師の権田さん(リヴライブ4月の一夜店長)と共にゲストスピーカーとして登壇しました。

「地域循環を考えたとき、自分たちはそこにどう関わり、何ができるのかを考える機会になりました」と薄さんは振り返ります。

飼育する中で牛からはメタンガスが排出されるのですが、飼育規模の大きい地域にとっては環境問題になることもあるそう。

ですが、ある種の海藻を飼料として牛に与えることメタンガスの排出量を抑えられるという研究結果が出ているというのです。

そこで以前から船に絡まる大量の海藻の処理について対策を考えていた権田さんと意気投合。

薄さんにとってはメタンガスの排出を抑える飼料が入手できるかもしれないし、権田さんにとってはゴミとなる海藻の処分費用が削減できるかもしれない。

まだその海藻がメタンガスの抑制に一役買うのかはわかりませんが、試していく価値はありそうです。 

また化学肥料を使わず有機で米を作っている福島農園の福島さんとも「農薬や化学肥料を使わない飼料米を作ってもらい、買い取れないか」、という話をしたそう。

それぞれ立つ現場は違えど、現場の悩みや想いを共有することでお互いに問題解決できる方法が見つかるかもしれない。そんな可能性を感じたそうです。

 

 

すすき牧場のむなかた牛は牧場でも購入できますが冷凍されてあるので、すぐに調理したい場合は道の駅むなかた「肉のススキ」(宗像店、新宮店)で購入するのがオススメです。

宗像が誇る「安心・安全」な牛肉を提供するすすき牧場さん、ありがとうございました!

 

次回予告

次回9月のLiV✕LiVEsは大島の塩爺こと河辺健治さんです。

河辺さんは宗像市と合併する前、大島がまだ大島村だった頃の最後の村長です。現在は玄界灘の海水から濃厚な塩を作り出し「大島の塩」として販売。さまざまなお菓子とコラボした商品も生まれています。また宗像市市民活動・NPOセンターが発行するNPO情報紙「ふらぐ」の中でコラム「島から見た宗像」にも執筆されています。

70歳を過ぎてもいきいきと活動する河辺さんの一夜店長、どうぞお楽しみに!

 

9月のLiV×LiVEsのイベントページはこちら

取材・文・写真:執行沙恵

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